エリート外科医の不埒な純愛ラプソディ。
特に、昔から、字や絵を描くのがどうにも苦手だった俺にとっては、とてもありがたいことだ。
あと少しでオペレコも完成というところで、ICU(集中治療室)でのオペ後の経過観察から戻ってきたらしい樹先生から声がかかった。
「いやぁ、窪塚のお陰で、論文のほうも順調だし。ほんと助かるよ」
背後の出入り口の方へ振り返ってみると、樹先生がいつもの人懐っこい笑顔を浮かべていて、手にはやっぱりあの毒々しい色のエナジードリンクの缶を手にしている。
「はい、お疲れ。これでも飲んで一息つけよ。……けど、そのせいで鈴とも逢えてないんだろう? 鈴が落ち込んでて可哀想だって、彩が心配してたぞ」
いつぞやのように俺のすぐ傍まで来ると、デスクの脇に毒々しい色のエナジードリンクを置いてから、周囲には聞こえないように潜めた声を放った。
そんな樹先生の表情からは、さっきまでの人懐っこい笑顔が消えていて、譲院長譲りの彫りの深い端正な顔を心配そうに曇らせてしまっている。
高梨の親戚で父親とも近しい樹先生の立場上、俺に表立って協力もできないので、尚更気遣ってくれているのだろう。
時折こうして気にかけてくれていた。