エリート外科医の不埒な純愛ラプソディ。
そんなこと話してみろ、今度こそ、高梨のことを掻っ攫われてしまう。
当然だが、そんなことまで考えが及ぶほどの心の余裕など持ち合わせちゃいなかったものの、無意識にそんな考えが働いたのかもしれないが、兎に角そんなことは言えなかった。
それに、藤堂は、自身については何も触れはしなかったが、おそらく、今でも高梨のことを想っているんじゃないかと、俺はそう踏んでもいたから、きっとそのせいだろう。
「……すぐにくっつくと思ってたのに、結局、何もなく卒業して、高梨を追ってったクセに、何の噂も流れてこないし。でもようやく、お前らが付き合い始めたって聞いて、祝いの言葉でも贈ってやろうと逢ってみたら、祝えるような雰囲気じゃなくて、何かあるとは思ったけど。……そうか。そんなことになってたのか」
「……あっ、ああ。まさか、そんなこととは知らなかったとは言え、さっきは悪かった」
「いやぁ、マジで殴られんのかと思った。まぁ、でも、娘を持つ父親ってそんなもんだろーし、根気よく説得したらいつかわかってくれんじゃないのか?」
「……だといいがな」
「それより、高梨のことちゃんとフォローしてやれよな? 高梨にとっては、おそらくお前が初恋だろうしさぁ。それに、こんなことでお前らが別れるようなことになったら、後味悪いし。高梨に手も出さずに身を引いた俺の恋心も浮かばれないしな」
「ーーはっ? 今、なんつったッ?」
「ん? 何ってだから、高梨とは清い交際だったっていったんじゃん」
「……ッ!?」
「何だよ急に。青い顔して」
「……へっ? いいやっ、なんでも」
「変な奴だなぁ」
そうしてあれこれ話してたら、思いがけず藤堂の口から出てきた、『高梨に手も出さずに身を引いた』と『清い交際』という言葉に、俺は猛烈に驚く羽目にもなってしまったのだった。
知らなかったこととはいえ、俺は、長年想い続けてきた大切な相手である高梨に対して、とんでもないことをやらかしてしまっていたらしい。