エリート外科医の不埒な純愛ラプソディ。
長年、あんなにも恋い焦がれてきた高梨に対して、犯してしまった自分のとんでもないやらかしに気づいてしまってからというもの、俺は心ここにあらず。
藤堂との会話も耳に何一つとして留まることなく右から左で素通りしてしまっていた。
けれどもそれを藤堂に気取られまいと、見た目的には、お得意のポーカーフェイスを決め込むことができていたはずだ。
ーーていうか、そうであってほしい。
正面の藤堂は、急に青ざめてしまった俺の様子に、しばし怪訝そうな表情をチラつかせてはいたが、藤堂の関心事は他のところにあったようだ。
バーテンに新しく作ってもらったギムレットの入ったグラスに口をつけ一口含んでから、藤堂が思いがけない一言を放ってきた。
「なぁ、窪塚。前々からちょっと気になってたことがあるんだけどさ。訊いてもいい?」
俺の頭の中は、まだまだ大混乱で、とてもじゃないが他のことなど考えているような余裕なんてなかったけれど。
「……ん? なんだよ? 改まって」
さもなんでもない風を装って平然と返事を返したというのに。
「いやさぁ。窪塚には、高梨のことも含めて何一つ勝てた試しはなかったけど、もしかしたら一つだけ勝ててるかもって思って。ちょっと確かめたくなってさぁ」
藤堂からの返事は、相変わらず前置きが長くて、焦れったく思えてならなかった。
「なんだよ? ハッキリ言えよ。気になるだろ」
当然、焦れた俺はすぐにそう言って先を促したのだが、直後そのことを猛烈に後悔することになる。