エリート外科医の不埒な純愛ラプソディ。
「じゃあ訊くけどさ。もしかして窪塚にとっても高梨が初めての相手、つまりはDTーー」
「ーーブッ!?」
「ハハッ……やっぱりな。ハハハッ」
「////……うっせーよっ。お前のせいでもあるんだからなッ!」
「ハハッ、そんな昔のこと、もうとっくに時効だろ。ハハハッ」
「……フンッ!」
結果として、藤堂の狙い通りだった俺は、口に含んでいたマティーニを危うくぶちまけそうになって、それをすんでのことろで口を掌で覆うことにより防げはしたが、代わりに藤堂に腹を抱えて馬鹿笑いされるというなんとも情けなく格好悪いにもほどがあるという有様だった。
厳密にいえば、途中までの経験はある。
医大生の頃、高梨が藤堂と付き合うようになって、高梨のことをなんとか吹っ切ろうとして、合コンで知り合ったりした相手に誘われるままに何度かホテルに行ったこともあった。
自慢じゃないが、医大生だったし、今と変わらず百八十センチの高身長で、その頃には身体も鍛えていて、見かけもそこそこだったこともあり、それなりにモテてもいたため、まったくその機会がなかったわけでは断じてない。
ただ、事に及んで、いよいよとなると、決まってそこで、高梨のあの可愛らしい顔が、あたかも呪縛のように脳裏にチラついてしまって、目の前の相手が高梨じゃないことに落胆でもするかのように、途端に高まっていたはずの気持ちが急激に冷めて、アレまで萎えてしまい、一度として最後まで成し遂げた試しがなかったせいだ。
オマケに、相手には不能扱いされた挙げ句に、腫れ物にでも触れるようにあからさまに気まで遣われ、次の機会は二度と訪れることもなく、次第とそういうことからも遠ざかっていった。
長年、高梨のことを踏ん切れずにいたのには、そういうデリケートな事情もあったのだ。
そう、あの夜まで、俺は正真正銘のDTだった。