エリート外科医の不埒な純愛ラプソディ。
純愛ラプソディ。

 いつものように職場である光石総合病院に出勤してすぐ、親戚のおじさんである院長に内線一本で院長室まで呼びつけられてしまった私が窪塚の話を聞かされたのは、樹先生が学会での発表を無事に終えた翌日のことだった。

 なんでも窪塚は、連日の忙しさに加えて、学会前日の大雨にも打たれたことで、どうやら風邪をひいてしまったらしく、昨夜の深夜から高熱を出して珍しくダウンしてしまっているらしい。

 確かに、これまで体調不良で欠勤なんてしたこと一度もなかったと思うし、医大生の頃だって、窪塚が風邪くらいのことで寝込んでしまうなんてこと、一度としてなかったような気がする。

 以前、部屋に泊まったときだって、豆乳とプロテインくらいしかなかったし。

 ひとりで大丈夫なのかなって心配にもなってくる。

 けれど、父と対峙した窪塚が私の意見なんて無視して、勝手に約束を取り付けてしまったあの日から、私は、もの凄く落ち込んだし、もの凄く怒ってもいた。

 そして導き出した結論はこうだ。

 窪塚が私のことを本当に好きだったとしても、あんな約束であっさり引き下がるくらいの、それくらいの気持ちでしかないんだ。

 だから、あれから、職場では何度か顔だって合わせているのに、ちょっと私がシカトしたくらいで、話どころか、挨拶もしてこなかったし。

 ーーほらね。やっぱりそれくらいの想いでしかないんだ。

 そりゃ、そうだよね。元々は、画像で脅してセフレにしたくらいの存在だったんだもん。

 一夜の過ちがきっかけで、たまたま関係を持った私との身体の相性が頗る良かったことと、恋愛ごとに疎くて、セックスとかそういうことにも不慣れな私のことが物珍しくて、ちょっと興味が湧いたくらいのものだったに違いない。

 そうじゃなきゃ、あんなに簡単に約束なんかする訳がない。

 ーー本当に私のことが好きだったら、私の気持ちを一番に尊重してくれるはずだ。

 この二週間というもの、そう結論づけていた私は、知らぬ間に募りに募っていた窪塚への想いをなんとか吹っ切ろうと躍起になっていたのだった。

 けれど、寝ても醒めても、窪塚のことばかり考えてしまって、一向に吹っ切れる兆しがなかったものだから、途方に暮れていたのだ。
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