エリート外科医の不埒な純愛ラプソディ。

 その証拠に、頭ではいくらおじさんに頼まれても、突っぱねてやろうと思うのに……。

「はっ!? なんで私が窪塚のお見舞いなんか行かなきゃいけないのよッ! ただの風邪なんでしょ? 絶対に嫌だからッ!」

「確かに、隼も圭先生も、鈴ちゃんの意見無視して約束なんかしてって、怒るのも無理ないと思うよ? でもさぁ、そんなに怒らなくてもいいんじゃないのかなぁ? だってあの場合はさぁ、父親である隼の手前、約束せざるを得なかった訳だし。なにより、鈴ちゃんのためだったんだしさぁ」

「……そんなこと……わかってるわよ。わかってるけど……。兎に角、逢いたくないって言ったら逢いたくないのっ! 皆好き勝手言って、ホント勝手なんだからっ! フンッ!」

「……そっかぁ。そんなに嫌って言うならしょうがないかぁ。けど、困ったなぁ。圭先生、ここんところずいぶんと疲れてたみたいでさぁ。高熱出して倒れてたりしてないかって心配なんだよなぁ」

「ちょっと熱が出たくらいで、大袈裟なんだからッ! フンッ!」

「否、それが大袈裟じゃないんだなぁ。電話受けた医療秘書の話だと、死にそうな声で電話かけてきて、通話が途中で途絶えちゃったなんて言うからさぁ。もう心配で心配で。おじさんにとってはさぁ、医大の頃からお世話になってる先輩の息子さんだし、何かあったら顔向けできないんだよねぇ。いやぁ、本当に困った困った」

「……だったらおじさんが行けば?」

「……行きたいのはやまやまなんだけど。おじさん、この通り院長だから忙しくてさぁ。参ったなぁ、とっても心配だなぁ。こうしてる間にも、倒れてたりしてないといいんだけど」

「……わ、わかったわよ。行けばいいんでしょ? 行けばッ! けど、ちょっと様子見てくるだけだから。ホントにそれだけだからねッ!」

 結局は、こうやって、おじさんの大袈裟でわざとらしい小芝居にまんまと不安を煽られて、窪塚の様子を見に行っちゃうんだから、本当にどうしようもない。

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