エリート外科医の不埒な純愛ラプソディ。

 あの後、泣き止んで落ち着きを取り戻した私と窪塚は、その足で窪塚の実家へと向かった。

 彼氏の家にご挨拶に伺うなんて初めてのことだし、お父さんは神の手だし、どうなることかと思ったのだけれど。

 窪塚のご両親はとても気さくな方で、急なことだったにも関わらず、快く出迎えてくださった。

 初見が、いくら無断外泊をしたからとはいえ、うちの両親とはまったく違っていたことに、拍子抜けしたほどだ。

 おおらかで陽気なお母さんと、少し物静かで温厚そうなお父さんの醸し出す雰囲気はとても穏やかで、時折にこやかに微笑み合っている姿がとっても素敵なご夫婦だった。

『息子ばかりだったから、娘ができたみたいでとっても嬉しいわ。うちはいつでもお嫁に来てもらいたいくらいよ。ねぇ、あなた』
『ああ、本当に。圭、鈴さんの気が変わらないうちに、そうしなさい』

 窪塚の両親からは、そんなお言葉をかけてもらえたほどの歓迎ぶりだった。

 終始、穏やかで和やかな雰囲気の中、時間は流れ、鮮やかなオレンジ色の夕暮れ空から藍色が混じった宵闇へと緩やかに移ろい始めた頃、料理が得意らしいお母さんからは、夕飯も誘ってもらったのだが。

『今日は顔見せだけだからもう帰る』

 窪塚がそう言ってやんわりとお断りして実家を後にした。

 そうしてつい先ほど、こじゃれたレストランで食事も済ませ、たった今窪塚のマンションの最上階専用のエレベーターに乗り込んだところだ。

 昨日は、ようやく想いが通じ合えたというのに、あの約束と窪塚が熱を出してしまったことで、お預けを食らってしまったけれど、お互いの両親にも交際を認めてもらったことで、ようやく本物の恋人同士となったのだ。

 これから先の期待感に、気持ちが昂ぶらない訳がない。
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