エリート外科医の不埒な純愛ラプソディ。
そんな私は、窪塚の胸にぎゅっと顔を埋めて窪塚のぬくもりと匂いとを目一杯堪能してしまっていた。そこに。
「おい、鈴。どうしたんだよ? 怖いのか?」
急に歩く速度を落とした窪塚から心配そうな声がかけられた。
どうやら窪塚は私が怖くてしがみついていると思っているらしい。
そして怖がっている私のことを案じて気遣ってくれているようだ。
たったそれだけのことが、どうにも嬉しく思えてくる。
そしてそのことを窪塚にもわかっていて欲しいと思ってしまう。
今までずっとずっと想いをひた隠しにしてきたからかもしれない。
その反動からか、窪塚への想いが溢れて止まらなくなってしまっている私は、これまでには考えられないようなことを吐露してしまうのだった。
「ううん、全然怖くなんかない。窪塚のことを少しでも近くに感じていたくて、くっついていただけだから気にしなーー」
けれども、その言葉も最後まで言い切る前に、窪塚から、
「そんな可愛すぎること言われたら、ヤバいって。あー、くそッ! もうどうなっても知らねーからなッ!」
さっきよりも苦しげで余裕なさげな声が返ってきた。
そうして、粗野な口ぶりとは裏腹に、大事な壊れ物でも扱うようにしてしっかりと抱え直すと、私の顔を覗き込んでくる。
私が何を言われてしまうのかと、おずおずと目線を上げると、今まで一度も目にしたことがないような、蕩けるような優しい眼差しで私のことを見つめている窪塚の端正な顔が待ち構えていた。
私は心ごと囚われてしまったように動けない。
ただただぽうっと呆けたままで窪塚のことを見つめ返すことしかできないでいる。
そこへ、ふっと柔らかな笑みを零した窪塚からかけられた、優しい甘やかな囁き声までが私の耳だけでなく心までをも打ち振るわせるのだった。