エリート外科医の不埒な純愛ラプソディ。

 そこへ、いつぞやのように私の身体を覆い尽くすようにしてぎゅうぎゅうに抱き込んだ窪塚から。

「そんなに煽るなよ。精一杯優しくしてーのに。イチイチそんな可愛い反応されたらヤバいだろ」

 苦しげに絞り出すような声音で紡ぎ出されたその言葉が胸にぐっとくる。

 あたかも心臓を射貫かれたような心地がする。

 そういえば、これまでもそうだったような気がする。

 いつもいつもこういう場面では、決まってドSっぷりを遺憾なく発揮してくるクセに、不意にこうやって優しく気遣ってくれてもいた。

 ピルを服用してるのだから、避妊なんて必要ないのに、一度も欠かさなかったし。

 振り返ってみれば、要所要所でこうやって、余裕がないながらも、いつもいつも私のことを優しく気遣ってくれていた。

 それなのに、どうして今まで気づけなかったんだろう。

 こんなにも大事にしてくれていたのに。

 ーーきっと初めてのあの夜も。

 あの夜のアレコレを覚えてさえいたら。窪塚の気持ちにもっと早くに気づいていれば。

 こんな風に遠回りすることもなかっただろうと思うのに。

 ふと気づけば、今更ながらにどうにもならないことを後悔してしまっている自分がいて、私は慌てて後ろ向きな思考を振り払った。

 お互いの両親からも認めてもらえて、晴れて本物の恋人同士になれたのだ。

 後悔なんてしているような、時間の無駄遣いなんてしている場合じゃない。

 窪塚と一緒に歩んでいくこれからの未来へ目を向けなくちゃ駄目だ。

 これからはもう二度と後悔なんかしないようにーーちゃんと恋人同士としてのスタートを切れるように。

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