エリート外科医の不埒な純愛ラプソディ。
今日は、脳外が担当する五十代男性患者の入院前カンファレスがあり、糖尿病の既往症があるため私たち総合内科も参加していた。
つい先程それらを終え、会議室から総合内科の医局に戻るためにメインストリートを足早に進みながら、何気なく外へと視線を向けると、そこに広がっていたのは青空ではなく、出勤時と変わらずの曇天模様。
まるで今の自分の心情みたいだなぁ。なんて思っているところに、左隣に並んで歩いていた彩からひそひそ声で。
「ねぇ、ねぇ、さっきのカンファ。今日もピカリンの独壇場だったよねぇ? なんか言葉の端々から、『外科医が一番偉いんだから、下っ端のお前らは黙って従え』みたいなさぁ」
話を振られ視線を向けると、顎をシャクって遙か前方を闊歩する脳外科医の集団を指し示していた。
その先頭には、通称ピカリンこと脳外の部長である日村《ひむら》先生の禿げ上がってテカテカと黒光りしている後頭部が見て取れる。
「あぁ、うんうん。今日も炸裂してたねぇ。なんか、いつにも増して頭のテカリも増してたし」
「ハハッ……いえてる~! あっ、今、いっくん(彼氏である樹先生)とチラッとだけ目が合っちゃったぁ。ラッキー! 実は今夜、久々のデートなんだぁ」
「そうなんだぁ。それはそれは羨ましいことで、ごちそうさまでした」
「なに言ってんの。鈴こそ、窪塚と付き合い始めてまだ一月足らずで、今がイッチバン楽しい時期じゃない」
不意打ちで窪塚の話題を振られ、視界の隅には窪塚の姿まで捉えてしまい、心拍数がドクンと跳ね上がった。
「あれ、なんかトイレ行きたくなってきたかも」
「さっき一緒に行ったばっかじゃん。それよりさ、ふたりの時の窪塚ってどんな感じ? やっぱ、メチャクチャ優しかったりするの? 付き合う前は、なんかお互い意識してるっぽいのに、鈴がいっつも近寄るなオーラ放ってて、窪塚も下手に近寄れなかったんだろうけどさ。カレカノになった今はどうなってるのかすっごく興味あるんだよねぇ」
なんとか話題をそらそうと試みたものの、あえなく失敗。彩の好奇心はおさまりそうにない。