エリート外科医の不埒な純愛ラプソディ。
あの時、窪塚は何を言おうとしていたんだろう?
あの時、窪塚はどんな表情をしてたんだっけ?
何度思い返そうとしても、自分のことで精一杯だったせいか、その時の記憶はとても曖昧だ。
けれども、これだけは断言できる。
窪塚の優しい気遣いに対して、いくら心に余裕がなかったとはいえ、あんな酷い仕打ちをした私のことを窪塚が好きになるはずがない――。
自分のことを窪塚が好きなんじゃないかという可笑しな仮説が浮上してきて、あの時のことを思い出すたびに、私は幾度となくそうやって結論づけていた。
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「あっ、晴れてきた。久々のデートなのに降ったら嫌だなぁって憂鬱だったんだよねぇ」
「ホントだ。やったじゃん」
「ヤッパ日頃の行い?」
「だったら土砂降りなんじゃない?」
「なにそれ、ヒッドー!」
「冗談だってば」
彩の弾んだ声で、つい先ほどまで分厚い雲に覆われてた空を見上げてみれば、雲の隙間からちらほらと薄日が射していた。
ーーさてと、もうひと頑張りしますか。
余計なことに気を取られないためにも、真っ直ぐに前だけを見据え、しっかりと踏みしめるようにして一歩を踏み出した。