エリート外科医の不埒な純愛ラプソディ。
予期せぬ事態
久々のデートということで、張り切っていた彩の願いが届いたのか、今日は急患もなく、就業時間を小一時間ほど過ぎたものの比較的早い時間に業務を終えることができた。
そうして午後七時を過ぎた頃。
仕事からあがって彩と共に更衣室で白衣から私服に着替えている時のことだ。
「ちょっと。鈴ってば、せっかく彼氏ができたんだからさぁ。もうちょっとメイクに気を配るとかできないわけ?」
「そんなこと言われても……仕方ないでしょ。毎晩毎晩テキスト見ながらいつの間にか寝落ちしてて、気づいたら出勤する時間まであと十分もないっていうのが最近のルーティーンで。そんな暇ないんだから」
「勉強も大事だけどさ。うちらまだ二十六のうら若き乙女なんだから。もっとこう、仕事も恋愛もエンジョイしなきゃもったいないってッ!」
「うら若き乙女……って。それ、いつの時代の話しよ」
「いーからいーから。ほら、ちょっとこっち来て座ってみなって。やったげるから」
「えー、ヤダッ! 彩は可愛いから似合ってるけど、私なんかがそんなもん塗りたくってたら、ただのオカマにしか見えないってばッ」
「なに言ってんのよ? 鈴は元がいいんだから、もったいないって言ってるの。すぐ済むから、ほら、じっとしてなさい」
「……分かったわよ」
既に着替えも終わり、これからのデートに備えて入念にメイク直しを始めた彩が、女子力乏しい私のほぼスッピンに近い顔をマジマジと眺めてダメ出ししてきたことにより、何故か帰宅するだけの私までメイク直しさせられることになってしまっている。