堂くん、言わないで。
「どっか行こうとしてた?」
「うん、ちょっと……」
だれかに見られちゃう、とドキドキしながら俯いた。
棗くんには申し訳ないけど、ほんのすこし素っ気ない態度になってしまう。
「じゃあね」
ろくに挨拶もしないまま立ち去ろうとしたときだった。
「ちょーっと待って」
ぱしりと腕をつかまれて、引き留められる。
振り向かないままでいたら棗くんが前に出て、わたしの手を引いた。
手をつかまれた瞬間、ちらりと顔を見られた。
なんか今日あついね、って。
「どこいくの」
「決めてないけど」
振り向いた棗くんは困ったように眉をさげて、柔らかい笑みをうかべていた。
「さすがに泣いてる女の子、ほっとけねーよ」