堂くん、言わないで。
鼻でもつまんでやろうかと思ったがやめた。
みくるが倒れたと耳に入ってきて、考えるより先に身体が動いていた。
保健室についたとき、ちょうど熱を測られていたみくるの意識はうつろだった。
入り口に立っている俺にも気づかないほどには。
体温計に表示されていた数値は38.7℃。
本来ならすぐに早退させられるその体温。
それでもすぐに帰らされなかったのは、どうやらこの時間は家に誰もいないからだと。
放課後になるまで迎えに来れないらしいから、それまではここで休ませるらしい。
いい?それでいいわよね?とまるで年寄りに確認するように何度も訊かれていたみくるは、うんうんと惚けたようにうなずいていた。
光の具合によって色を変えるみくるの瞳は、見る角度によっては淡い桃色にも翠色にも見える。
その瞳がいまはふんわりと閉ざされていた。
これ以上見つめていても、なにもできることはない。
起こさないように立ちあがり保健室を出ると、ちょうど誰かが中に入ろうとしているところだった。
向こうもいきなり出てきた俺におどろいたのか、目を丸くする。
「あ、堂恭花」
出会い頭に指を差され、さすがにイラッとした。
……柏木棗。