堂くん、言わないで。
柏木の肩にはひとつのかばんが掛けられていた。
それに視線を落とすと、向こうもそれに気付いたのか。
ああ、とゆったりした声が返ってくる。
「だれも持っていこうとしねーから、俺が持ってきたの。まあ元から持っていくつもりだったけど」
訊いてねーよ、と言う気さえ湧かなかった。
こいつの妙に飄々としているところが以前から理解できない。平たく言うと気に食わなかった。
「なんか女子たちにいろいろ言われたけど、全部無視してきた。俺がみくるちゃんのこと守ってあげたらいい話だしねー?」
俺がなにも言わないでいると、柏木がすこし口角をあげて続ける。
「仲直りしたんだ」
「別にしてない」
「喧嘩してたんでしょ?」
「してない」
「お前らなんでそう揃いも揃って頑固なのかなぁ」
呆れたように笑いを漏らした柏木は、肩に掛かっているかばんを持ち直した。
置き勉せず真面目に教科書を持ち帰りしているのか。みくるのかばんは、えらくずっしりして見える。
頭いいのか、あいつ。
あんまり良さそうには見えねーけど。