堂くん、言わないで。
「中にみくるちゃんいた?」
「……いま寝てる。顔ぐらい見てってやれば」
すると柏木はえっと大げさに驚いた表情をみせる。
そういうところもイラッとするんだよ、と心の中で毒づいた。
「なに」
「意外。堂なら『入るな。あいつの寝顔見ていいのは俺だけだー』くらい言いそうだと思ったんだけど。案外独占欲ないんだね?」
言いたいことだけ言ってほほ笑み、柏木は保健室に入ろうとする。
俺の横を通りすぎる寸前、最後の確認をするように一度立ち止まった。
「通してくれたってことは俺がみくるちゃんになにしても、文句は言わないよね?」
ゆっくり振りかえると、そいつは無駄に爽やかな笑みを浮かべていた。
そういうところもだ、と再三思う。
「……あいつのこと好きなのか」
「それはこっちが訊きたいね。俺に貸しイチついてるよ、堂」
さっきから妙なことばっか言いやがって。
貸しもなにも、まともに話したのはこれが初めてだろうが。
俺がなにも返してこないと思ったのか、柏木は今度こそ行こうとした。