堂くん、言わないで。
ガタッといすが床に当たる音がした。
頭のうしろに手をまわされる。
ぐっと引き寄せられる腕の力とは裏腹に。
唇に触れたそれはひどく柔らかく、そして熱かった。
「これでやっとわかったでしょ」
喉がつまったように声が出ない。
ただ、心臓だけは痛いくらいに跳ねていた。
バクバク、ずっと鳴ってる。
「言ったよね、そんなに優しくないって。俺はいつだって自分のために動いてた」
棗くんがふっと瞳をゆるめた。
愛おしいものに向けるような……そんな眼差しだった。
「好きだから」
開けっぱなしの窓から一筋の風が入りこんでくる。
カーテンを揺らして、レースがふわりと持ちあがって。
半透明になった棗くんの、それでもはっきりした声が、穏やかにわたしの鼓膜を揺らした。
「みくるちゃんが好きだから、一緒にいるんだよ」
意識した途端、じわりと耳の後ろに熱をもって。
ほおが冗談みたいに熱くなるのを感じた。