堂くん、言わないで。
堂とみくると歓楽街
*
「みくる」
なんど夜を越えても、あの日のことは簡単に忘れられなくて。
忘れるどころかひとりのときにずっと考えてしまう。
好きだから。
わたしが好きだから一緒にいる。
棗くんはそう言った。
さすがにその“好き”が友だちとしてじゃないことくらい、わたしにもわかる。
つまり……棗くんは、わたしのことを
「おい」
ぐにぃぃ、と伸びるほっぺた。
みんなして人のほっぺを餅みたいに!
「にゃに……」
「こっち見ろよ」
「ええ……?じぶんかっひぇ……」
わたしは戸惑いながらも読んでいた本を閉じた。
今日はそこまで寒くもなく、カイロとしての役目もない。
お互いに向かい合ったいすに座って、堂くんは眠り、わたしは本を読んでいた。
なのに寝ていたはずの堂くんは起きてるし。
わたしは本の内容がぜんぜん頭に入ってこないし。