堂くん、言わないで。
「ミクルちゃんは、好きな人のすべてが知りたいとは思わないタイプ?」
「すべてを知っても知らなくても、堂くんであることには変わりないから、……です」
ひゅう、とからかうように口笛をふいた遼花くん。
「純愛だね。……まぶしーや」
そのまま唇を歪めて笑ったあと、背を向けて行ってしまった。
その後ろ姿を見つめながら、自分が言った言葉を思い出す。
そんなんじゃないと指摘できる雰囲気じゃなかったとはいえ……
『“好きな人の”すべてが知りたいとは思わないタイプ?』
否定することなく堂々と答えてしまったことに、いまさらながら恥ずかしくなった。
ポケットの中でスマホが鳴った。
取り出すと、棗くんからで。
待ち合わせ場所にいないけど大丈夫?とのこと。
はやく行かなきゃ!
荷物を持ち直し、あわてて走り出した。
落ちかけている夕日を追いかけるように走るわたしとは反対に、夕日から背を向けるように去っていった堂くんの弟、遼花くん。
わたしが彼に会えたのは、これが最初で最後だった。