堂くん、言わないで。
ガラスの靴が落っこちて、
*
文化祭の準備もいよいよ大詰めを迎えていた。
すこし心配だったシンデレラの演技もセリフも、そこまで難しくはなくて。
カボチャのケーキを注文されたら、ガラスの靴を履いて王子さまの前で落とす。
それを拾った王子さまが持ち主を探して、わたしを見つけ、ハッピーエンド。
時間にしておよそ3分。ちょうどいい長さだった。
「ひとつ問題があるとしたら」
「うん?」
「わたし、このドレスに負けてない?」
文化祭前日の放課後。
役を与えられた人たちで集まって、最終の打ち合わせをしていた。
もちろんわたしも、そして棗くんも参加していて。
みんなからすこし離れた教室の隅で、わたしはとなりにいた棗くんに小さく呟いた。
見おろしているのは自分のドレス姿。
衣装班の子たちが寝る間も惜しんでつくってくれた代物だ。
ブルーのドレスは裾がふわっと広がっていて、すごく豪華だった。
そのぶん、わたしの地味な顔がひどく浮いているような気がした。
メイクをしたくらいじゃ派手にならない、うすらぼんやりした顔。