堂くん、言わないで。
不安になっていると、王子さまの衣装をすんなり着こなしている棗くんが「大丈夫だって」と励ましてくれた。
「負けてないよ。むしろ似合ってるし、かわいい」
「あ、ありがとう」
褒められるとは思ってなかったから、うわずった声になってしまう。
それでも不安はぬぐいきれなくて、自分の髪やドレスをいじってばかりいた。
すると棗くんの手がすっと伸びてきて、わたしの下ろした髪をすこし持ちあげる。
そこに自然な流れでキスを落とされたから、もう硬直してしまって。
周りから動揺の声があがることはなかった。
もしかしたら演技の一環だと思われていたのかもしれないし、みんな明日の本番のことに頭がいっぱいで、わたしたちを気にする人はほとんどいない。
「みくるちゃん」
「え?」
「ちょっとふたりで話そっか」
思わず棗くんを見あげると、彼はいつもに増して真剣な顔をしていた。
なんのことを話すのか、なんとなくわかってしまったわたし。
断ることもできずにうなずいたのと、棗くんがわたしの手をとったのはほぼ同時だった。
教室を出ると、どこのクラスからも賑やかな話し声が聞こえてくる。
まだみんな帰ってないんだ。
明日の準備とか、最終確認とかで残ってるのかな。
ぼんやりしながら、棗くんの後ろ姿をみつめる。
もし……また、想いを伝えられたら。
わたしは今日こそ返事をしないといけない。
そう考えると心がぎゅっと狭まったような気がした。