堂くん、言わないで。
一緒にいるのはもちろん、棗くんだ。
だけど頭のなかにいるのは……あのときと同じ。
ううん、いつだって、
わたしの頭のなかにいるのは────
もう戻れないほどに思考が進んでいく。
だめだともうひとりの自分が言っていた。
存在を主張するように、棗くんの手に力がこもった。
だけどわたしの頭に浮かんで……ずっと浮かんでいるのは。
「あ…… ────どう、くん」
そのとき、廊下のずっと向こう。
人だかりのなか遠くに見えた堂くんの姿。
後ろ姿でもわかってしまう。
それくらい、わたしは堂くんのことを見てきた。
「いかないで」
とっさに呼び止められて、わたしは自分が足を踏み出そうとしていたことに気づく。
振りかえると棗くんがじっとわたしを見つめていた。
心まで囚えられてしまいそうなほどにつよく、強く。