堂くん、言わないで。
わたしはその瞳をなんとか振り切って、もういちど人だかりの彼方へと目を向けた。
ちょうど、人が捌けて。
堂くんの姿をはっきりと確認することができる。
──なんでおかしいと思わなかったんだろう。
人混みの嫌いな堂くんが、ここにいる理由を。
好きな人はいないと勝手に思っていた理由を。
背中までまっすぐ伸びた黒髪は、堂くんとはまた違った艶やかさがあった。
振り向きざまに見えた横顔は、とても白く、大きな目もぱっちりとしていて。
他校の制服からのぞく長い手足はすらりと細くて、モデル顔負けのプロポーション。
堂くんに腕を絡めてうれしそうに話しかけている、その女の子を見たとき。
いつもより幾分やわらかな眼差しをした堂くんが、女の子の頭をぐしゃりと撫でたとき。
わたしの胸を覆ったのは、
──────気づきと、諦め。
あーあ、遅かった。
というかはじめから、望みなんてやっぱりなかった。
いまさら気づいてももう、どうしようもできない。
自分の気持ちに気づいて、同時に失恋までしてしまった。
泣きたくなるより、そうだよね、という気持ちのほうが強かった。