堂くん、言わないで。
ナイトベールに包まれて、
*
はだ寒いと感じる日が増えてきた。
あの日のことはなにも堂くんに言わなかった。
棗くんとのことも。
あのとき隣にいた女の子のことも。
言ったらすべてが変わってしまいそうで、わたしはいまの日常を失いたくなくて。
なにもかも黙って、今日も放課後の図書室に足を運んでいた。
「みくる。お前さ」
「なあに?」
「前にも増して目合わなくなったんだけど」
ぎくり、と思わず肩が跳ねあがりそうになった。
そんなに露骨じゃなかったと思うんだけど。
あわてて書架から顔をあげて、テーブル席のほうにいる堂くんに笑いかける。
「そうかな?気のせいだよ」
笑うことは得意だ。
いままで何度もこれで乗り越えてきたから。
ただ、堂くんには見抜かれてしまいそうで。
わたしはほどほどに、顔を書架のほうに戻した。
──すこし恐ろしくさえあるんだ。
自分で自分をコントロールできなくて、気がつくと堂くんのことばかり考えてしまう。
いや……それは前からだった、かも。
いちど自覚してしまうと気持ちは募るばかり。
わたしはいま、どうしようもないジレンマに陥っていた。