堂くん、言わないで。
それでもなんとか目をそらさないでいると、女の子のほうが先に視線を外した。
「恭くんが冷え性なのも知ってる?」
「……はい。わたしが体温高いから、カイロ代わりに…って」
ありのままに話したら女の子は一瞬おどろいたように目を見開いて。
すぐにうっすらと笑ってみせた。
ビー玉のような瞳がきらきら、しずむ夕焼けに反射する。
「なーんだ。ただ都合のいい存在なだけじゃん」
突き飛ばされたようなショックを受けて、息ができなくなった。
そんなわたしなんてもう、眼中にないかのように。
女の子は上機嫌に鼻歌をうたいながら、駅のほうへと歩いていく。
この短時間で言われたことが一気に、荒波のように押し寄せてきて。
その場から動くことができずにいるわたしを、ゆっくりと夜のベールが包みこんでいく。
切ない夜はもうすぐそこまで迫っていた。