堂くん、言わないで。


「もう大丈夫、ありが────」


生理現象であふれてくる涙を拭いながら、顔をあげたときだった。


思った以上に、すぐそこにあった堂くんの顔。

ひさしぶりにこんな近くで見つめ合った気がする。



そのとき、なゆちゃんの言葉が脳裏をよぎった。




あのね、みくる。

好きな人のことはじっと見つめたいものなの。





ねえ、堂くん。


なんでわたしが本を落としたことに、すぐ気づいたの?


わたしと目が合わないって、よく言ってたよね?





アドバイスよ、みくる。

すこしでも疑問に思ったら、目を見つめなさい。






『3秒、目が合ったら。それはみくるのことが好きな証だよ』






1秒、2秒────……3秒。







それは星が流れるくらいにあっという間で。


だけど、雲が流れるようにゆっくりにも感じた。



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