堂くん、言わないで。
「っ、だめ……だめ、いられない」
上から重ねられた手に力がこもるよりも早く、わたしは堂くんの手を振りはらう。
まさか、こうして好きな人の手を振りはらうなんて。
こんなにくるしい恋をしちゃうなんて。
……すこし前のわたしは、思ってもいなかっただろうな。
「幸せになってね────堂くん」
立ちあがったわたしは、足の痛みなんか忘れていた。
それよりもずっと心が痛かったから。
図書室を飛びだしながら、ふと思った。
やっぱり、わたし、なんにも変われてないじゃん…って。
自分から伸びている黒い影が、逃げてばかりのわたしをあざ笑うかのように。
どこまでも、どこまでも追いかけてきていた。