堂くん、言わないで。
もう俺たちを思い出すことはないのかと思っていた。
なぜ?という疑問が頭のなかを埋め尽くす。
この父親は、捨てたはずの2つのコブをまた我が身につけようとしている。
「恭花、遼花」
父が張りついた喉を潤すように水を飲んだ。
となりの女も、つられるように。
それを正面で見ていた俺の手も、無意識に水の入ったグラスに伸びた。
ひやりと熱を奪われる。
「明日からまた一緒に暮らそう。家族みんなで、一緒に」
俺は口に含んだ氷を、しずかにかみ砕きながら思った。
その“家族みんな”に入れてもらったのは、一体どっちなのだろう。この女か?それとも……
目の前の女は話し合いの最後まで、とくに意見もせずひかえめにほほ笑んでいるだけだった。
すうっと身体の熱がまた引いた気がした。