堂くん、言わないで。
誰が、なにを言っている?
いままでかけられた言葉が、一気になだれ込んでくる。
頭のなかが整理できないほどぐちゃぐちゃになったとき。
ふと、再生されたのは。
あのときの────保健室での出来事だった。
保健室のベッドで横になっているみくるが、熱にうかされながら呟いた言葉。
そのときの言葉が自分でもびっくりするほど、すうっと身体の中に流れこんできた。
『わたしさぁ、けっこう好きだったんだよ……あの放課後の時間……そうは見えなかったかもしれないけどさぁ、…好きだったんだよ』
────ああ、そうか。
やっとわかったような気がした。
俺が求めているのはただ、ぬくもりだけじゃない。
そんなんじゃない。
あいつは……みくるは、そんな存在じゃなかった。
いまさら気づいたってもう遅いのに。
虚しくひらいた手のひらを見つめ、空を見あげる。
月も、星のひとつさえも見つけられやしない。
どこまでも続く夜の世界に、ネオンだけがひどく輝いていた。
「わかった」
自分の口から出たひとことが、誰の言葉に対する返事なのか。……はっきりしなかった。