堂くん、言わないで。
「最近よさげなカフェが駅前にできたんだってさ」
「ふ、ふーん……」
「みくるちゃんが好きそうなパンケーキ。これがいちばん人気なんだって」
見せられたインスタの投稿には、たしかにわたし好みのパンケーキ。
なんで棗くんがわたしの好みまで把握しているんだろう。
キャラメルバナナの2段パンケーキ。
「さっきはデートとか言ったけど、ふつうに友だちとしてならどう?」
「う……でも、男女ふたりっきりで遊びに行くのは、デートだよね?」
だからやめておく、とわたしは断腸の思いで首を左右にふる。
すると棗くんがあきらめたように肩をすくめた。
「1回は釣れたのになぁ~」
「あっ、あのときはまだ、なにもわかってなかったの!」
夏祭りのことがもうずいぶんと昔のように感じられる。
まだ半年も経っていないのに。
……あれから、いろいろあったからかな。
そう、あのときのわたしはまだ、なにもわかっていなかった。
棗くんの気持ちも、わたし自身の気持ちにも。