堂くん、言わないで。


あ、堂くんが笑った────


意地悪な笑みでも、大人びた笑みでもない

……初めて見るその表情に胸が詰まった。


きゅうっと自分の胸が窮屈になったように感じた、そのとき。



「あ……予鈴」


遠くで間延びしたチャイムが聞こえてくる。


自分がノートを持ったままだったことを思い出して、やっと現実に引き戻された。


はやく行かなきゃ。


というか……待って?



柏木くんにノート任せっぱなしだった!


あわてて立ちあがる。



「柏木くん、教室にいるかな……」


お礼言わないと。


ジュースひとつじゃ割に合わないかな?

購買の食券も用意しようか……



「じゃあわたし行くね」


ぶつぶつ呟きながら、出ていこうとしたときだった。




「安藤みくる」


呼び止められ、振りかえると。

またしてもフキゲン顔に逆戻りしてる堂くん。


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