堂くん、言わないで。
「寒い」
「え」
「寒い」
2回も言われる。
それは寒いからカイロにさせろってこと?
「いや、いまはむりだよ……」
わたしだって毎回従うわけじゃない。
たまには断ったりするもんね。
「というかその安藤みくるってフルネームで呼ぶの、地味に恥ずかしいんだけど」
そう言って、今度こそ行かなきゃと踵を返す。
堂くんもそんなとこ座ってないで、教室に戻ったほうがいいんじゃないの。
……と言おうとして思いとどまった。
なにか行きたくない理由があるなら、無理強いするのも憚られる。
いいや、なにも言わなくて。
「じゃあね」とだけ言って行こうとしたときだった。
「……みくる」
「え」
これには振りかえらないわけにはいかない。
ばっと向いたわたしを、堂くんはじっと見つめていた。
「また、……放課後。みくる」