堂くん、言わないで。


「寒い」

「え」

「寒い」


2回も言われる。

それは寒いからカイロにさせろってこと?



「いや、いまはむりだよ……」


わたしだって毎回従うわけじゃない。

たまには断ったりするもんね。



「というかその安藤みくるってフルネームで呼ぶの、地味に恥ずかしいんだけど」


そう言って、今度こそ行かなきゃと踵を返す。


堂くんもそんなとこ座ってないで、教室に戻ったほうがいいんじゃないの。

……と言おうとして思いとどまった。


なにか行きたくない理由があるなら、無理強いするのも憚られる。


いいや、なにも言わなくて。


「じゃあね」とだけ言って行こうとしたときだった。






「……みくる」


「え」



これには振りかえらないわけにはいかない。


ばっと向いたわたしを、堂くんはじっと見つめていた。







「また、……放課後。みくる」



< 61 / 257 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop