堂くん、言わないで。
さきほどの言葉を思い出す。
『わたしはちゃんとここにいるよ』
そんなことを言われたのは初めてだったし、そう言わせるような雰囲気を自分が出していたことに驚いた。
あいつが出ていったあと、
自分の言動を思い返して────
「…………かゆ」
無性に痒くなった。
全身がむず痒いのはいつも通りに振る舞えないからか。それともあの────安藤みくるのせいか。
みくるは他のやつとはあきらかにどこかが違った。
俺のことを怖がっていたくせに、あっさり慣れてしまう神経の図太さ。
表面的なあたたかさだけじゃない。
温度とかそういうことではなく、みくるからは見えないあたたかさを常々感じる。
柏木といるところを見て、なぜか胸が刺されたようにチクリとした。
あいつに励まされ、うれしいと泣いているみくるを見て、胸の中でどす黒いものが疼いた。
そんな自分がひどく見苦しく、そしてイライラする。