堂くん、言わないで。


「ちっ……」


自然に出た舌打ちは、誰もいない宙に溶けて消える。


ひとりきりには慣れている。

むしろ、ひとりでいるほうが楽だ。


誰かといるのはべつに嫌いじゃないし、話すことが億劫なわけでもない。


ただ、目に見えてわかるから。


いつからか怖がられるようになった。

ありもしない噂が流れるようになった。

それまで近くにいたやつらがみんな、遠巻きに俺を恐れるようになった。


俺からなにかをしたわけじゃない。

それなのに、気がつけば周りには誰ひとりとしていなくなっていた。


そこで俺は気づいた。

ああ、そういうことって。



浅い関係で終わるくらいなら、最初からひとりでいるほうが楽だった。





……いままでは。


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