堂くん、言わないで。
とにかく、それならキスのこともとりあえずは大丈夫だ。
彼女にバレて大乱闘なんてことにもならない。
キスのことは墓場まで持っていこう。
あれは事故、そしてただのお礼だったんだ。
そう自己完結したときだった。
「お前は……付き合ってんの。あいつと」
「あいつって?」
「……柏木棗」
「なつめくん?ううん、付き合ってないよ」
なんで棗くんの名前が出てきたんだろう。
わたしは棗くんの明るい笑顔を思い浮かべる。
さながら太陽だ。
「棗くんは友だちだよ」
「友だちとふたりきりで遊びにいくわけ」
「友だちってそういうものじゃないの?」
「あいつはお前のこと友だちだと思ってんの」
「え……なんでそんなこと言うの?」
思わず足を止めると、すこし歩いて堂くんも立ち止まる。
わたしを振りかえる顔は影になっていて、その表情はうまく読み取れない。
なのに、つながれた手だけは離されなかった。
「ムカつくんだよ」
それは荒っぽい口調だった。