堂くん、言わないで。


吐き捨てるような響きに、そして向けられた瞳に。

わたしの心はどんっと木槌で殴られたようになる。

だけど堂くんは追い打ちをかけるように言った。



「お前を見てると……イライラする」


さっきからお前、お前って。

わたしのことみくるって呼んでくれたじゃん。

あの頃のことがもうずっと昔のことのように感じる。


ぐしゃりと空いた手で髪を乱す堂くんには、なぜか余裕がなさそうに見えた。

そのことを本人もわかっていて、それに動揺しているようにも。


いつもだったら、他の人だったら、わたしも素直に「ごめんね」って謝ってる。

笑ってごめんねって言える。


だけど堂くんには……



堂くんだけには、そんなこと言われたくなくて。




「じゃあ手、離してよ」


気づいたら泣きそうな、情けない声をふりしぼっていた。


< 97 / 257 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop