堂くん、言わないで。


「イライラするんだったら、無理して一緒にいなくていいよ」

「……違う」


なにが違うの?


わけがわからなくて、とにかく手を離そうとする。

だけど離してくれない。


それどころかもっと強くにぎられる。



「離して、もうひとりで帰れるから」


どれだけ振りほどこうとしても、びくともしない。

こんなところで男女の力の差を見せつけられても。


わたしは泣きそうになって、ぐっと堪えた。


泣き虫ってまた言われる。

イライラするって、また思われる。



「嫌いなら……離してよ」


なんでこんなに感情的になっちゃうんだろう。

心の中がざわざわして、目の前がぐるぐるして。



「なんであのとき、わたしにキスしたの」


墓場まで持っていこうとしてたものまで掘り返しちゃって。


ぽろぽろと溢れる涙を拭うこともなく。


わたしは耳を塞ごうと必死だった。


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