交際期間0時間の花嫁 ――気がつけば、敏腕御曹司の腕の中――
不敵な花婿
「長瀬リアルエステート? それって、あの長瀬リアルエステート?」
「……うん」
「まじかよ」

 右手にビールのグラスを持ったまま固まってしまったのは、私の同期で同じ支店で働いている早川孝彦――通称タカくんだ。

 私たちはわかば信託銀行に入行して五年目になる。
 私の仕事は個人の資産運用に関わるものだが、タカくんは法人営業担当なので、私が口にした社名に極端な反応を見せた。

 というか、長瀬リアルエステートは業界に輝かしく君臨している総合不動産会社だ。誰もが名前くらいは知っているだろう。

 全国的にオフィスビル事業、商業施設事業を展開する大手のデベロッパーで、住宅マーケットでも高いシェアを誇り、ホテル業やリゾート開発にも進出している。資本金はたしか六百億円――それが私の結婚相手、長瀬篤人さんの職場だ。

「その副社長と結婚したわけ? しかも御曹司なんだろ?」
「……うん」
「それにしても意外だな」

 小学校から大学まで私立の一貫校育ちの彼は、思いきり素直な文字どおりのお坊ちゃん。今も整った顔をひきつらせ、何の遠慮もなく思ったままを口にしてくれた。

「みずほが、まさかの玉の輿狙いとはねえ」
「こらっ!」

 失礼な発言をしたタカくんに、私より早くひじ打ちで反撃してくれたのは、やはり同期で親友の由貴だ。彼女は華やかな容姿と社交的な性格を買われ、本社の広報部で活躍している。

 二人は去年結婚したのだが、私はその新居で夕食をごちそうになっていた。
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