交際期間0時間の花嫁 ――気がつけば、敏腕御曹司の腕の中――
なんとか落ち着いたと思った時、ふいに後ろから呼びかけられた。
「どうしました、みずほさん?」
咄嗟に、それが若い男性の声だとわかった。だけど今、この部屋には私しかいないはずなのに。
(えっ? えええっ? 何で? どういうこと?)
唐突に、「不審者」という三文字が脳裏に浮かぶ。
気づいた時には、じょうろを握り締めて叫んでいた。
「きゃああっ!」
つんざくような悲鳴――とても自分の声とは思えない。
「みずほさん。ちょっと待って、みずほさん!」
相手は何度も私の名前を呼んだが、返事などできるわけなかった。
「みずほさん!」
その誰かの手が右肩に触れた瞬間、限界が来た。
「嫌! 触らないで!」
私はきつく目を閉じ、その手を振り払う。
すると今度は両肩をつかまれ。身体の向きを変えられた。
「ねえ、みずほさん。どうか落ち着いて――」
後から思えば声も触れ方も優しかったのだけれど、その時の私にはそれさえ認識できなかった。
(無理!)
次の瞬間、私は目を閉じたまま思いきりじょうろを振り回した。
ガコン!
「うわっ!」
じょうろが何かに当たった鈍い音と、悲鳴が上がったのは、ほぼ同時だった。
「いたた……。まいったな」
相手は明らかに怯んだ様子で、私の肩を離した。
じょうろはステンレス製だから、ヒットすればそれなりのダメージを与える。この隙に逃げようと思った時、私は妙な感覚に襲われた。
(あれ?)
さっきから私を呼ぶ声に、なんだか聞き覚えがあるような気がしたのだ。今さらではあるけれど。
(……ま、まさか)
恐る恐る目を開けた私の前に立っていたのは、痛そうに額を押さえている長瀬さんだった。
「どうしました、みずほさん?」
咄嗟に、それが若い男性の声だとわかった。だけど今、この部屋には私しかいないはずなのに。
(えっ? えええっ? 何で? どういうこと?)
唐突に、「不審者」という三文字が脳裏に浮かぶ。
気づいた時には、じょうろを握り締めて叫んでいた。
「きゃああっ!」
つんざくような悲鳴――とても自分の声とは思えない。
「みずほさん。ちょっと待って、みずほさん!」
相手は何度も私の名前を呼んだが、返事などできるわけなかった。
「みずほさん!」
その誰かの手が右肩に触れた瞬間、限界が来た。
「嫌! 触らないで!」
私はきつく目を閉じ、その手を振り払う。
すると今度は両肩をつかまれ。身体の向きを変えられた。
「ねえ、みずほさん。どうか落ち着いて――」
後から思えば声も触れ方も優しかったのだけれど、その時の私にはそれさえ認識できなかった。
(無理!)
次の瞬間、私は目を閉じたまま思いきりじょうろを振り回した。
ガコン!
「うわっ!」
じょうろが何かに当たった鈍い音と、悲鳴が上がったのは、ほぼ同時だった。
「いたた……。まいったな」
相手は明らかに怯んだ様子で、私の肩を離した。
じょうろはステンレス製だから、ヒットすればそれなりのダメージを与える。この隙に逃げようと思った時、私は妙な感覚に襲われた。
(あれ?)
さっきから私を呼ぶ声に、なんだか聞き覚えがあるような気がしたのだ。今さらではあるけれど。
(……ま、まさか)
恐る恐る目を開けた私の前に立っていたのは、痛そうに額を押さえている長瀬さんだった。