交際期間0時間の花嫁 ――気がつけば、敏腕御曹司の腕の中――
 まるでシェアハウスにでも誘っているような口ぶりだが、彼が提案しているのは結婚なのだ。

「そ、そういう問題では……というか、そんなのおかしくないですか?」
「そうかもしれません」

 長瀬さんは考え込むように視線を落とした。

 どうやら妙なことを言っているという自覚はあるらしい。私は少し安心したのだが――。

「今日は空港から会社に直行して仕事をしてきたんですが……ここに帰ってくる時、窓に明かりが見えました」
「明かり?」

 急に全然違う話になって、私は目を見開いた。

「こんなことを言うと失礼ですが、帰国は明日と伝えていたから、もしかしたらみずほさんはご実家で過ごしているかもしれないと思っていました。見張っているわけじゃないので、うまくごまかすこともできますから」
「私はそんなこと――」
「わかっています。それでも実は少し不安だったんです。だからちゃんと明かりがついていて、俺の家にみずほさんがいてくれると思ったら、たまらなくうれしくなりました。できたら、これからもそうしてほしくて」

 ごく至近距離で優しく顎先を持ち上げられ、まぶしいくらいのイケメンにこんなことを言われてしまったのだ。
 理性がどこかに行ってしまってもおかしくないし、私もうっかり頷きかけてしまった。

(いや、だめ! だめよ、みずほ! しっかりしなさい!)

 実際には顔を動かせないので、私は心の中で激しくかぶりを振った。
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