交際期間0時間の花嫁 ――気がつけば、敏腕御曹司の腕の中――
 やっぱり佐藤さんとおしゃべりすると、気持ちが落ち着くみたいだ。次も休憩が一緒になるといいなと思いながら、その場を去ろうとした時だった。

「ねえ、安達さん」

 ふと佐藤さんが声をかけてきた。

「さっきのこと、ほんとに気にしなくていいと思うよ」
「さっき……って、石橋問題ですか?」
「うん。性格は人それぞれなんだから」

 慎重過ぎるせいで友だちからからかわれてしまう――佐藤さんは、そんな私を励まそうとしたのだろう。

 だけど、なんとなく素直に頷きたくなかった。私自身、自分のそういうところを気にしていたからかもしれない。

「だったら、渡らなきゃいけない時はどうすればいいんですか?」

 私が問い返すと、佐藤さんは大きく頷いてみせた。

「大丈夫。きっと君なら渡れるよ。それに一緒に渡ってくれる人が現れるかもしれない」

 一緒に渡ってくれる人? それって、なんだかどこかで聞いたような――。

(あれ?)

 私は目を閉じて、かぶりを振った。

 ――その時は、俺と手をつないで渡りましょう。

 誰がそう言ったのか思い出して、私は困惑しながら目を開ける。
 ……長瀬さんだ。

「ね、みずほさん」

 さっきまで佐藤さんがいた場所には、笑みを浮かべた長瀬さんが立っていた。もちろんチェックのシャツ姿ではなく、見るからに上質なスーツをトップモデルみたいに着こなして。

*  * * * *

「わっ!」

 ベッドから跳ね起きると、最近ようやく見慣れてきた部屋の景色が目に入ってきた。

「あれって……」

 私は夢を見ていたのだ、もう何年も前のインターシップの時の。
< 31 / 62 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop