交際期間0時間の花嫁 ――気がつけば、敏腕御曹司の腕の中――
(なんで今ごろ、あんな夢を見たんだろう?)

 木製のブラインドの隙間から日差しが差し込んで、室内がうっすら明るく見えた。

 アンティーク風のライティングデスクと対の椅子、クイーンサイズのベッド、フローリングに敷かれたカラフルなラグはトルコ製らしいキリム。丸みのあるペンダントライトは明るいオレンジ色だ。
 家具は少ないが、センスがよくて居心地がいい。

 どれも上質なものばかりだから、今まではいつも落ち着かなかったけれど、今朝はなぜかその良さを素直に受け止められた。
 このインテリアは長瀬さんの趣味だろうか? だとしたら、彼はどこまでも隙がない。

 さっきはインターシップで仲よくなった佐藤さんがいつの間にか長瀬さんに変わってしまったが、いくら夢の中とはいえ、彼らを重ねてしまったことがおかしかった。

 そもそも二人はまったく違っている。あえて共通点をあげるなら、どちらも細身で背が高いところくらいだろう。

(あ、だけど雰囲気がちょっと……?)

 私は、式場で長瀬さんと話をした時のことを思い出した。

 初めて会う人なのに、なぜだかなつかしくて、動揺が少しだけ落ち着いた。まるで、前に佐藤さんとおしゃべりしていたころのように。

「いやいやいや」

 私は強くかぶりを振った。どこをどういじったところで、二人は別物だ。

 そのまま枕の横に置いたスマホに目をやると、時刻はちょうど午前六時半だった。

「そろそろ起きなきゃ」

 今日は日曜で仕事はお休みだが、よその家で寝坊するわけにはいかない。しかもここの主人は長瀬さんなのだ。よけいなことを考えていないで、とにかくベッドから出なければ。

 私は身を起こすと、両手を上げて、大きく伸びをした。
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