交際期間0時間の花嫁 ――気がつけば、敏腕御曹司の腕の中――
私が眉を寄せていると、先を歩く北山先生が「おっと」と声を上げた。
「そういえば、じょうろの件は心配いらないと思います。今回の発熱とは関係ないです……おそらく」
「わ、わかりました。ありがとうございます」
玄関に向かう背中は笑いを堪えているのか、少し震えている。恥ずかしくて、頬に血が上った。
(あっ!)
先生が長瀬さんのいとこであることを思い出したのは、その時だ。
ということは、圭介さんともいとこなのだろう。結婚式にも参列したと言っていたし、仲がよさそうだから、長瀬さんとのおかしな関係も知っているのかもしれない。
私はますます気まずくなって、何も言えなくなった。一応「奥さん」認定をしてくれてはいたが、内心でどう思っているかわからないからだ。
すると北山先生はまるで何かを察したかのように、足を止めて振り返った。
「みずほさん……でしたよね?」
「あ、ええ。はい」
改めて名前を呼ばれ、思わず背筋が伸びる。そんな私に向かって、先生はいきなり頭を下げた。
「えっ? 先生?」
「篤人を頼みます」
「あの――」
唐突過ぎるひとことに、ただ固まるしかなかった。
北山先生は顔を上げ、さらに言葉を重ねる。
「あいつは見た目が派手だし、やることも大胆なくせに、妙に一途なんですよ。初恋の相手もずーっと引きずっていたし……とにかくよろしくお願いします」
そこまで言われては、反応しないわけにはいかない。
「……わかりました」
取りあえず頷いてみせると、先生はうれしそうに微笑んだが――。
(何だろ?)
なぜだか、いやに気持ちがざわついている。私は途方に暮れながら、帰っていく北山先生を見送った。
「そういえば、じょうろの件は心配いらないと思います。今回の発熱とは関係ないです……おそらく」
「わ、わかりました。ありがとうございます」
玄関に向かう背中は笑いを堪えているのか、少し震えている。恥ずかしくて、頬に血が上った。
(あっ!)
先生が長瀬さんのいとこであることを思い出したのは、その時だ。
ということは、圭介さんともいとこなのだろう。結婚式にも参列したと言っていたし、仲がよさそうだから、長瀬さんとのおかしな関係も知っているのかもしれない。
私はますます気まずくなって、何も言えなくなった。一応「奥さん」認定をしてくれてはいたが、内心でどう思っているかわからないからだ。
すると北山先生はまるで何かを察したかのように、足を止めて振り返った。
「みずほさん……でしたよね?」
「あ、ええ。はい」
改めて名前を呼ばれ、思わず背筋が伸びる。そんな私に向かって、先生はいきなり頭を下げた。
「えっ? 先生?」
「篤人を頼みます」
「あの――」
唐突過ぎるひとことに、ただ固まるしかなかった。
北山先生は顔を上げ、さらに言葉を重ねる。
「あいつは見た目が派手だし、やることも大胆なくせに、妙に一途なんですよ。初恋の相手もずーっと引きずっていたし……とにかくよろしくお願いします」
そこまで言われては、反応しないわけにはいかない。
「……わかりました」
取りあえず頷いてみせると、先生はうれしそうに微笑んだが――。
(何だろ?)
なぜだか、いやに気持ちがざわついている。私は途方に暮れながら、帰っていく北山先生を見送った。