交際期間0時間の花嫁 ――気がつけば、敏腕御曹司の腕の中――
「えっ?」
「よかった。ここに……いてくれて」

 長瀬さんは安心したように小さくため息をついた。

「あの、お水は?」
「いい……です」

 ぎこちなく首を振って、長瀬さんが手を伸ばしてきた。その様子はなんだか子どもみたいに頼りなげで、とても放ってはおけない。気づいた時には、私はその手を握っていた。
 少し熱い、大きな手。

「あり、がとう」

 長瀬さんは小さく頷くと、再び目を閉じた。すぐに寝息が聞こえてきたから、そのまま眠ってしまったらしい。

 こんなふうに弱った姿を見せるなんて反則だ……本当に。

 キスの件にはまだ戸惑っていたし、心の中にはモヤモヤした思いが渦巻いている。
 それでも握った手を離すことも、その場を動くこともできず、私はしばらく長瀬さんの寝顔を見つめ続けていた。
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