交際期間0時間の花嫁 ――気がつけば、敏腕御曹司の腕の中――
(……ほんとにきれいな顔)

 長いまつ毛、高くてまっすぐな鼻、形のいい薄めの唇――いくら見ていても飽きないくらい完璧な容姿。しかも彼はただイケメンなだけでなく、超一流企業の副社長で御曹司なのだ。

 どうしてそんなすごい人が私なんかに告白して、キスしたのだろう?

(もしかして初恋の相手に似てる……とか?)

 そう思うと、なぜだか急に胸が苦しくなった。長瀬さんを見ていられなくて、それでも手はつないでいたくて、悩んだ挙句に目を閉じる。

 別に眠くなかったし、そういう状況でもなかった。それでも座ったことで気が抜けてしまったのかもしれない。
 私はいつの間にか、うとうとしてしまったらしい。

「う……ん」

 ふと、ドアを閉めるような音がした。
 なんとなく気配を感じて、目を開けると、

「えっ? え、あ、えええっ?」

 意味不明な声を上げて、激しくうろたえてしまったのは、近くに立っていた長瀬さんとまともに目が合ってしまったからだ。それも上半身が裸の。

(長瀬さん、何で起きてるの? ていうか私、何で寝てるの?)
 
 気づかないうちにベッドで横になっていたらしく、私は慌てて起き上がった。 

(うわ、すごい)

 男らしい広い胸と、くっきり割れた腹筋――まるでアスリートみたいな身体から目を離すことができない。抱き締められた時に感じてはいたけれど、想像していた以上に引き締まっていて……びっくりするくらいセクシーだ。

 長瀬さんはグレーの膝丈のジョガーパンツを履き、首にバスタオルをかけていた。髪が濡れているから、シャワーを浴びてきたのかもしれない。
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