交際期間0時間の花嫁 ――気がつけば、敏腕御曹司の腕の中――
「……みずほさん?」
「あ!」

 急に顔が熱くなった。ばかみたいに長瀬さんの裸に見惚れていたことに気づき、私は急いで目をそらす。

「だ、大丈夫なんですか? 熱があるのに起きたりして」
「いや、もう平気です。汗をかいたから、シャワーを浴びてきました」

 すぐにベッドから下りたものの、今度はそのせいで彼との距離がかなり近くなってしまった。どうやらハーブ系らしい石けんの香りがはっきりわかるくらいに。
 私はますます気まずくなって、必死に話し続ける。

「えっと、だったら、お腹すいていませんか? 朝ごはんまだだったし、何か食べられそうなものを作りましょうか? あ、でも体調が悪くて食欲なんてないかもしれませんけど、取りあえず水分だけでも取っておかな――」

 怪しいくらい饒舌だったのに、急に黙り込んでしまったのは、長瀬さんが背を向けたからだった。
 背中にまっすぐ走る縦のラインと、きれいについた筋肉に、また視線が吸い寄せられてしまう。

(やだ、もう!)

 いったいどうしてしまったのだろう? 自分で自分が信じられない。

 しかしそんな私の動揺には気づかず、長瀬さんは奥にあるチェストの方へ歩いていった。
 身を屈めて、引き出しから白いTシャツを取り出し、無造作に被る。それから私に向き直ると、ゆっくり頭を下げた。

「あの――」
「ありがとうございました、みずほさん」
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