交際期間0時間の花嫁 ――気がつけば、敏腕御曹司の腕の中――
「えっ?」
「安達みずほさんですよね」
「は、はい、そうですけど……」
唇が震えて、声も上擦ってしまう。だいたいこんな状況で、まともな答えを返せるはずがなかった。
(誰?)
ちょうど私の正面に立ち、まばゆい笑顔を見せている相手に見覚えはない。もしかしたらどこかで会ったことがあるのかもしれないが、間違いなく友人でもなければ、知人でさえなかった。
それなのにどうして彼は私の名前を知っているのだろう? というか、今はそんなことを気にしている場合じゃないのだ。
「ごめんなさい。私、急いでおりまして――」
「ああ、そうですね。今は取り込んでおられるんですよね? でも、そんな恰好であちこち動き回らない方がいい。せっかくのドレスやヴェールが汚れてしまいます」
「は?」
「失礼、みずほさん」
相手は慇懃に頭を下げてみせたが、笑みを浮かべたまま動こうとしない。
「申し遅れましたが、俺は長瀬といいます。長瀬篤人。桐山圭介のいとこです」
「いとこ……圭介さんの?」
思考停止していた私の頭が、ようやく少しずつ働き始めた。
圭介さんのいとこなら、花嫁になるはずだった私のことを知っていてもおかしくない。おそらく姿を消した彼の代わりに謝りに来たのだろう。
これからご両親や他の親族も姿を見せるのだろうけれど、まず一番手として選ばれたのかもしれない。
「みずほさん、今日は突然こんなことになってしまい、本当に申しわけありません。さぞ、お困りでしょうね」
「え、ええ」
長瀬と名乗った青年は確かに謝罪してくれた。
とはいえ、それほど申しわけなさそうには見えず、なぜか背筋を伸ばすと、私に向かって右手を差し出したのだ。
「では、ちょうどいい。俺と結婚しましょう」
「安達みずほさんですよね」
「は、はい、そうですけど……」
唇が震えて、声も上擦ってしまう。だいたいこんな状況で、まともな答えを返せるはずがなかった。
(誰?)
ちょうど私の正面に立ち、まばゆい笑顔を見せている相手に見覚えはない。もしかしたらどこかで会ったことがあるのかもしれないが、間違いなく友人でもなければ、知人でさえなかった。
それなのにどうして彼は私の名前を知っているのだろう? というか、今はそんなことを気にしている場合じゃないのだ。
「ごめんなさい。私、急いでおりまして――」
「ああ、そうですね。今は取り込んでおられるんですよね? でも、そんな恰好であちこち動き回らない方がいい。せっかくのドレスやヴェールが汚れてしまいます」
「は?」
「失礼、みずほさん」
相手は慇懃に頭を下げてみせたが、笑みを浮かべたまま動こうとしない。
「申し遅れましたが、俺は長瀬といいます。長瀬篤人。桐山圭介のいとこです」
「いとこ……圭介さんの?」
思考停止していた私の頭が、ようやく少しずつ働き始めた。
圭介さんのいとこなら、花嫁になるはずだった私のことを知っていてもおかしくない。おそらく姿を消した彼の代わりに謝りに来たのだろう。
これからご両親や他の親族も姿を見せるのだろうけれど、まず一番手として選ばれたのかもしれない。
「みずほさん、今日は突然こんなことになってしまい、本当に申しわけありません。さぞ、お困りでしょうね」
「え、ええ」
長瀬と名乗った青年は確かに謝罪してくれた。
とはいえ、それほど申しわけなさそうには見えず、なぜか背筋を伸ばすと、私に向かって右手を差し出したのだ。
「では、ちょうどいい。俺と結婚しましょう」