いつか、君に「」と伝えられたら。
「……」

春風が吹いて、首に巻かれたマフラーが揺れる。町を歩く人々は、そんな僕の格好に目もくれずに通り過ぎていった。皆、僕の姿が見えてないから。

僕は、ある日事故に巻き込まれて死んでしまった。何でか分からないけど、僕は数か月間ずっとこの世界を彷徨ってる。

「……ねぇ、君」

近くから声が聞こえるけど、多分僕に向かって言ってるんじゃないと思うし、僕は聞こえないふりをすることにした。

「……聞こえてる?」

僕の肩に手を置かれて、僕はビックリしてしまった。後ろを向くと、黒いローブに付いたフードを深く被った誰かが僕を見つめてる。

「僕、ですか?」

僕の言葉に、誰かは無言で頷いた。

「……あの、あなたは……?」

「死神」

僕の問いかけに、誰かは答える。僕は「え?」と聞き返した。

「……死神。君の未練を解決して、天国へ導くの」

落ち着いた声で、死神さんはそう答える。僕の未練……?

「僕に、未練なんてないはずですが……」

僕がそう言うと、死神さんは大きく息を吐いた。

「……だと思った。君は、西川 拓実(にしかわ たくみ)くん……で、合ってるかな?」

「え……?」

「神様から、君の名前を聞いたんだよ。西川 拓実くんを天国へ連れてこい、ってね」
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