恋愛タイムカプセル
「聞いたぞ篠塚。 お前この間昔の恋人に振られて大玉砕したらしいな」
どこから聞いてきたのか、結城社長はその悲しい言葉とは真逆に明るい口調で話しかけて来た。
まったくもって心外だ。私はその噂を吹聴した人にちょっと腹を立てたけれど、それは事実ではないし会社の人とはまるで関係ないことだから、これ以上怒らないことにした。
「振られてません。私は連絡して食事しただけです。あと、昔の恋人じゃありません。片思いしてた人です」
彼はヒュウ、と口笛を吹いた。
「やるな。それで、結果はどうだったんだ?」
「ある意味、大玉砕でした。彼、すっかり変わってて……あ、変わったっていうのは見た目のことです」
「男なんて、何年か経てば色々変わるさ。それぐらいで興味が失せるなら、お前の気持ちもそれだけのものだったってことだろ」
そうかもしれない。私はずいぶん前から彼に片思いをしていたけれど、結局それは自分の理想を押し付けていただけだったのかも。王子様、なんて呼ばれていた彼に憧れて、キャーキャー言っていた周りのミーハーと同じだ。
「さて、そんな大玉砕したお前に仕事だ」
結城社長は私のデスクにぽん、とクリアファイルを置いた。次の仕事の依頼だ。私はファイルを開いてページをめくった。
「前川邸の中庭の改修依頼だ。アポ取り付けてるから打ち合わせしてこい」
「なかなか立派な中庭ですね。市内でこれだけ大きな物件って……」
「一応、社長宅だから。任せたぞ」
彼はよろしく、と私のデスクを離れた。私はもう一度、ファイルの中身を確認する。
場所は市内の一等地だ。繁華街に近い。けれど仕事で行く以外で用事のない場所だった。
概要欄を確認しながらふと、現場地図に視線が留まる。依頼人の家に近くに大きな建物があった。
『私立図書館』の文字を見て、私は真っ先に春樹くんを思い出した。もしかして彼はここに勤めているのだろうか。
名前までは聞いていないからわからないが、私立図書館は限られているしここにいる可能性は大きい。
────会いに行くっていうの? あの冴えない王子様に?
私はふと、妙な考えが頭にチラついたことに気がついた。
彼に会いに行ってなんになるのだろう。第一、次に会う約束をしたわけでもない。あの一回で逢瀬は終わったのだ。また食事に行こう、と言ったわけでもない。
けれど気になる。あんなダサ男なのに、どうしてだろうか。私はまだ、初恋の魔法にかかったままなのかもしれない。
どこから聞いてきたのか、結城社長はその悲しい言葉とは真逆に明るい口調で話しかけて来た。
まったくもって心外だ。私はその噂を吹聴した人にちょっと腹を立てたけれど、それは事実ではないし会社の人とはまるで関係ないことだから、これ以上怒らないことにした。
「振られてません。私は連絡して食事しただけです。あと、昔の恋人じゃありません。片思いしてた人です」
彼はヒュウ、と口笛を吹いた。
「やるな。それで、結果はどうだったんだ?」
「ある意味、大玉砕でした。彼、すっかり変わってて……あ、変わったっていうのは見た目のことです」
「男なんて、何年か経てば色々変わるさ。それぐらいで興味が失せるなら、お前の気持ちもそれだけのものだったってことだろ」
そうかもしれない。私はずいぶん前から彼に片思いをしていたけれど、結局それは自分の理想を押し付けていただけだったのかも。王子様、なんて呼ばれていた彼に憧れて、キャーキャー言っていた周りのミーハーと同じだ。
「さて、そんな大玉砕したお前に仕事だ」
結城社長は私のデスクにぽん、とクリアファイルを置いた。次の仕事の依頼だ。私はファイルを開いてページをめくった。
「前川邸の中庭の改修依頼だ。アポ取り付けてるから打ち合わせしてこい」
「なかなか立派な中庭ですね。市内でこれだけ大きな物件って……」
「一応、社長宅だから。任せたぞ」
彼はよろしく、と私のデスクを離れた。私はもう一度、ファイルの中身を確認する。
場所は市内の一等地だ。繁華街に近い。けれど仕事で行く以外で用事のない場所だった。
概要欄を確認しながらふと、現場地図に視線が留まる。依頼人の家に近くに大きな建物があった。
『私立図書館』の文字を見て、私は真っ先に春樹くんを思い出した。もしかして彼はここに勤めているのだろうか。
名前までは聞いていないからわからないが、私立図書館は限られているしここにいる可能性は大きい。
────会いに行くっていうの? あの冴えない王子様に?
私はふと、妙な考えが頭にチラついたことに気がついた。
彼に会いに行ってなんになるのだろう。第一、次に会う約束をしたわけでもない。あの一回で逢瀬は終わったのだ。また食事に行こう、と言ったわけでもない。
けれど気になる。あんなダサ男なのに、どうしてだろうか。私はまだ、初恋の魔法にかかったままなのかもしれない。