恋愛タイムカプセル
episode 3. カエルの王子様にキスはできるか
篠塚朝陽、二十五歳。
朝起きて、鏡を見つめて思うこと。私は決して美人ではない。
類い稀な才能や美貌、スタイルとは無縁の、平凡で、どちらかといえば負け組だった人間────。
特にガッカリすることはなかった。毎朝いつもと同じ自分が鏡に写っていた。先日の私が特別美人だったりしたわけじゃない。そのことを確認して、また疑問は深まった。
顔を洗って部屋に戻ると、机の上に置かれた藍色の袋に視線をやる。
その中には土曜日図書館で借りた本が中に入っている。私はその中からレシートのような紙を取り出した。貸し出しカードの代わりになるもののようだ。
そこには借りた本のタイトル、日付、そして受付した担当者の名前が書かれていた。これを貸し出したのは間違いなく北原春樹だ。
ちょっと図書館に寄っただけだったのに思わぬことに発展した。まさかまた彼と食事するとは思わなかった。おまけに彼と仲良く食事して、楽しく会話して、私はまるで少女のようにドキドキしていた。
あの黒縁眼鏡のダサボサ男に、だ。元王子様に失礼だろうか。でも本当のことだ。
身支度を整え、いつもどおり出勤する。電車に揺られ、おしゃれなオフィスに足を踏み入れると朝方考えていたモヤモヤは幾分かすっきりした。雰囲気に影響されるなんて軽い女だ。やっぱり昨日の私はただあの空気感に当てられただけではないだろうか。
「おはよう」
デスクに着くと、由香はパソコンと睨めっこしていた。後ろから声をかけたが、集中しているのか気付いていないようだ。
画面にはCADで書かれた図面が写っている。けれどまだ途中のようだ。
彼女の仕事はざっくり言うと、CADと呼ばれるソフトを使って図面を書くことだ。私もなんとなくは使えるが、彼女ほど詳しくはない。
「大丈夫?」
由香はようやく振り返った。カチカチ鳴っていたマウスの音がふっと止まる。彼女は開口一番に愚痴をこぼした。
「もう最悪。図面修正食らっちゃったあ」
「期限間に合いそう?」
「なんとか。もう、納期ギリギリで修正させるのほんとやめてほしい」
「終わったら美味しいケーキでも食べに行こうよ」
「賛成! 俄然頑張る!」
由香はもう一度画面に向かった。私もデスクに向き直り、仕事に取り掛かることにした。
朝起きて、鏡を見つめて思うこと。私は決して美人ではない。
類い稀な才能や美貌、スタイルとは無縁の、平凡で、どちらかといえば負け組だった人間────。
特にガッカリすることはなかった。毎朝いつもと同じ自分が鏡に写っていた。先日の私が特別美人だったりしたわけじゃない。そのことを確認して、また疑問は深まった。
顔を洗って部屋に戻ると、机の上に置かれた藍色の袋に視線をやる。
その中には土曜日図書館で借りた本が中に入っている。私はその中からレシートのような紙を取り出した。貸し出しカードの代わりになるもののようだ。
そこには借りた本のタイトル、日付、そして受付した担当者の名前が書かれていた。これを貸し出したのは間違いなく北原春樹だ。
ちょっと図書館に寄っただけだったのに思わぬことに発展した。まさかまた彼と食事するとは思わなかった。おまけに彼と仲良く食事して、楽しく会話して、私はまるで少女のようにドキドキしていた。
あの黒縁眼鏡のダサボサ男に、だ。元王子様に失礼だろうか。でも本当のことだ。
身支度を整え、いつもどおり出勤する。電車に揺られ、おしゃれなオフィスに足を踏み入れると朝方考えていたモヤモヤは幾分かすっきりした。雰囲気に影響されるなんて軽い女だ。やっぱり昨日の私はただあの空気感に当てられただけではないだろうか。
「おはよう」
デスクに着くと、由香はパソコンと睨めっこしていた。後ろから声をかけたが、集中しているのか気付いていないようだ。
画面にはCADで書かれた図面が写っている。けれどまだ途中のようだ。
彼女の仕事はざっくり言うと、CADと呼ばれるソフトを使って図面を書くことだ。私もなんとなくは使えるが、彼女ほど詳しくはない。
「大丈夫?」
由香はようやく振り返った。カチカチ鳴っていたマウスの音がふっと止まる。彼女は開口一番に愚痴をこぼした。
「もう最悪。図面修正食らっちゃったあ」
「期限間に合いそう?」
「なんとか。もう、納期ギリギリで修正させるのほんとやめてほしい」
「終わったら美味しいケーキでも食べに行こうよ」
「賛成! 俄然頑張る!」
由香はもう一度画面に向かった。私もデスクに向き直り、仕事に取り掛かることにした。